職人・高安賢人がつくる「クロニクル獅子」
2026.09.01共有
指でつくるから生まれた、やわらかな獅子。
職人・高安賢人がつくる「クロニクル獅子」

育陶園の感謝祭のために、職人・高安賢人が手がけた「クロニクル獅子」。
落ち着いたマットな色合い。
ところどころに現れる、溶岩のような荒々しい釉薬の表情。
そして、どこかやわらかさを感じる丸みのある姿。
近くで見ると、身体に残された線や凹凸には、均一ではない独特の味わいがあります。
その理由を聞くと、賢人さんから返ってきたのは、
「今回は、ほとんど道具を使わずに、指でつくったんです」
という言葉でした。
――今回のクロニクル獅子は、どんなイメージから始まったのでしょうか。
最初から明確なテーマがあったわけではないんです。
今回は初めてこういうオリジナルの獅子をつくるということもあって、「どうしようかな」と考えながら、まず土を触り始めました。
その中で、最初に尻尾の模様を指で描いてみたんです。
そこから、「じゃあ、ここも指でやってみよう」「口も指でつくってみよう」となって。
気づいたら、できるだけ道具を使わず、指でつくるという方向になっていました。

――最初から「指だけでつくろう」と決めていたわけではなかったんですね。
そうですね。
つくりながら決まっていきました。
いつもの獅子だったら、毛並みを入れたり、形を整えたりするときに道具を使うんです。
歯も、普段だったら道具を使って形をつくります。
でも今回は途中で「道具を使わない」と決めたので、歯も土を直接つけて、指で形をつくりました。
鼻の穴も最初は指で開けようとしたんですけど、「これは無理だな」と(笑)。
なので、今回は鼻の穴も開けていません。
――そこまで徹底しているんですね。毛の表現も指ですか?
そうです。
大きな部分は親指で押したり、なぞったり。
細かい毛のところは、小指を使っています。
普通に道具を使えば、もっときれいな線や整った形にすることはできます。
でも今回は、指で触った跡をそのまま残したかった。
だから、いつもの獅子とは違う、少しやわらかい線になったと思います。
――確かに、力強い獅子というより、どこか優しい表情を感じます。
もともと、あまりゴツゴツしたものにはしたくなかったんです。
シンプルな形にしたいと思っていました。
指でつくっていくうちに、毛並みも細かくつくり込むというより、必要なところだけを残すような形になっていって。
口も開けることはできたんですけど、今回はあえて閉じています。
毛をつくったあとに「口はどうしよう」と考えて、閉じていたほうが今回の雰囲気には合うかなと思いました。
――脚のラインも、とてもきれいですね。
そこは意識しました。
シンプルにすればするほど、全体の形が見えるじゃないですか。
最初は脚まわりも少しもっさりしていたんですが、猫科の動物の脚のような、すっとした形をきれいに出したくて整えています。
指でつくった柔らかさは残しながら、身体の形はちゃんと見せたい。
そこはこだわったところですね。
――少しライオンのようにも見えます。
途中で「ライオンっぽくしてみようかな」とも考えました。
ライオンの耳って、獅子に比べるとかなり小さいんですよね。
だから耳ももっと小さくしてみようかと思ったんですけど、そこまでやるとシーサーから離れすぎる気がして。
動物として自然な形を出したいけれど、ちゃんと獅子でもありたい。
その間を探しながらつくりました。
全体的にどこか一つを極端に強調するのではなく、獅子らしさを残すことを意識しています。
――そして、この色も印象的です。
最初からマットな仕上がりにしたいと思っていました。
本当は光沢のない真っ黒な感じも考えていたんですけど、それは少し難しくて。
育陶園で使っている「アッシュ」の釉薬がもともとマットな質感なので、「これを使ってみよう」と。
獅子にアッシュを使うこと自体、あまりやったことがなかったので、どう出るかは焼いてみるまで分からなかったんです。
場合によっては釉薬がかなり剥がれるかもしれないと思っていました。
――結果的には、その表情が作品によく合っていますね。
そうですね。
釉薬がひび割れたように見えるところがあって、そこが溶岩みたいにも見える。
最初は指の跡が釉薬で埋まってしまうかなと思っていたんですけど、ちゃんと残ってくれました。
指でつくった線や凹凸と、アッシュの質感が思っていた以上に合ってくれたと思います。
もう少し焼き方を変えると、さらに黒っぽい表情も出せるかもしれないので、それもやってみたいですね。
――今回の作品を一言で表すとしたら?
「指描き獅子」とか(笑)。
本当に、指がキーワードですね。
道具を使わずに、自分の手で直接土を触ってつくった。
指で押して、なぞって、形をつけて。
そういう手仕事が、そのまま作品の表情になっています。

指の跡を、消さずに残す。
いつもの獅子なら、道具を使って整えるところを、あえて指でつくる。
きれいに揃えるのではなく、押した跡やなぞった線をそのまま残す。
そうして生まれた今回のクロニクル獅子には、育陶園で普段つくられている獅子とは少し違う、やわらかな表情があります。
そして、その手仕事の跡を包むのが、賢人さんが選んだアッシュの釉薬。
静かなマットの質感の中に、ひび割れや濃淡が現れ、指でつくられた凹凸をさらに引き立てています。
「最初からテーマがあったわけではない」と話す賢人さん。
土を触り、形を見ながら考え、そこから次の表現を見つけていく。
今回の一体は、そんな賢人さんの手と土とのやりとりから生まれました。
感謝祭でぜひ、正面から見るだけではなく、尻尾や脚、毛並みまで近くで眺めてみてください。
そこには、賢人さんの指から生まれた一つひとつの跡が残っています。
育陶園感謝祭で製作したシーサーです。
感謝祭の日より、育陶園本店にて販売いたします。



高安 賢人(たかやす けんと)
壺屋焼窯元 育陶園陶工
神奈川県生まれ。10代の頃、自身のルーツである沖縄へ渡り、育陶園へ入社。
当初はシーサー職人として工房でものづくりに携わっていたが、持ち前のコミュニケーション力を買われ、事務・営業部門へ。数年間、事務所スタッフとしてお客様対応や社内外の業務を幅広く経験。
その後、工房から再び声がかかり、シーサー職人としてものづくりの現場へ。
人と話すことも、現場を動かすことも、土に向かうこともできる多才な職人ですが、制作に入ると一転。静かに、黙々と土と向き合う。
さまざまな経験を経たからこそ持つ柔軟な視点と、職人としての集中力をあわせ持ちながら、育陶園のものづくりを支えている。


【育陶園 感謝祭2026】
日程| 10月10日(土)・11日(日)・12日(月・祝)
時間| 10:00~18:00※店舗・施設によって営業時間が異なります。
場所| 育陶園 各施設
・育陶園本店・Kamany・gumaguwa・Etha・nan*ne・壺屋のいりぐち・育陶園やちむん道場・育陶園 工房
