奇々怪々職人製作インタビュー その3
2026.09.21共有
「作品だけでなく、物語ごと楽しんでもらいたい」
ひさしさんの作品には、妖怪や神様をモチーフにしながら、そこへ独自のユーモアや想像を加えた世界観があります。
今回の「奇々怪々展」では、作品そのものだけでなく、ポエムや写真なども組み合わせながら、一つの物語として楽しんでもらうことを意識しています。
ひさしさん自身も、
「作品だけを置くのではなく、そこにストーリーがあることで、お客さんの見え方が変わる」
と話していました。
「蟹香炉獅子」
蟹獅子香炉強者から金品や力を奪うことを好む。
弱者を圧倒的に守る存在で、
虐げられる者の味方でもある。
蟹獅子に出会った者は、
絶望しか味わえないという。

「カルラちゃん」
「カルラちゃん」は、仏教に登場する神格「迦楼羅(カルラ)」から着想を得た作品です。
ひさしさんがイメージしたのは、『ゲゲゲの鬼太郎』にも登場したカルラの姿。
本来のカルラは、鳥のような姿をした非常に勇ましく、迫力のある存在として表現されます。

しかし今回は、あえてその力強い姿をそのまま再現するのではなく、
「もっと可愛らしい子どものような姿にしたら面白いのではないか」
という発想から制作しました。
そのため名前も「カルラ」ではなく、親しみを込めて「カルラちゃん」としています。

「牛鬼獅子」
牛鬼は、日本各地の伝承に登場する妖怪の一つです。
地域によって姿は異なりますが、蜘蛛のような胴体を持つ姿などで描かれることがあります。
ひさしさんの作品では、その牛鬼の姿をベースにしながら、壺屋焼らしくシーサーの要素を組み合わせています。
外見は少し不気味で、妖怪らしい存在感がありますが、あえてピンク色を取り入れることで、どこか可愛らしく、ギャルのような雰囲気も感じられる作品になりました。
ひさしさんが意識したのは、
「見た目のグロテスクさと、可愛らしい色とのギャップ」。
妖怪としての怖さだけではなく、少し笑えて、愛着を感じられる存在に仕上がっています。
本来の神々しさや強さを持った存在と、幼く可愛らしい姿とのギャップが、この作品の魅力です。
お香を焚くと「糸」が出てくる
「牛鬼」は、見た目だけではなく、実際にお香を焚いて楽しめる作品でもあります。
作品の中にお香を入れると、煙が蜘蛛の糸のように立ち上る仕掛けになっています。
牛鬼の持つ蜘蛛のイメージと、お香の煙を「糸」に見立てることで、作品そのものに動きが生まれます。
展示では、実際に煙が出ている様子を写真や映像でも紹介することで、より作品の世界観が伝わるのではないかと考えています。
「蜘蛛の糸」から生まれたポエム
今回ひさしさんが特に大切にしているのが、作品とポエムを組み合わせた展示です。
牛鬼の蜘蛛の糸から連想し、
「獲物を捕らえる糸なのか、それとも誰かへの想いをつなぐ糸なのか」
という想像を膨らませました。
そこから生まれたのが、片思いをテーマにしたポエムです。
蜘蛛の糸という少し不気味なモチーフを、恋心に置き換えることで、作品の見え方が大きく変わります。
見た目は少し怖い妖怪。
しかし、その心の中は意外にもロマンチック。
そんなギャップも、この作品の楽しみ方の一つです。
「獲物なのか、片思いなのか」
ひさしさんが考えた牛鬼の世界では、この蜘蛛は部屋の片隅で静かに誰かを待っています。
獲物を待っているのか。
それとも、届かない誰かへの想いを抱えながら待っているのか。
見る人によって解釈が変わるような、少し曖昧な物語にしています。
ひさしさんは、
「最初に作品を見るのか、最初にポエムを見るのかによっても、感じ方が変わると思う」
と話しています。
作品を見たあとにポエムを読む。
あるいはポエムを読んでから作品を見る。
その順番によって、同じ作品でもまったく違った印象になることも、今回の展示の面白さです。

「羽と決意」
もう一つ、作品に合わせて考えられたのが「羽」をテーマにしたポエムです。
これまで飛ぶことを恐れ、羽を閉じていた存在が、自分自身の意思で空へ飛び立とうとする物語。
傷つくことへの恐怖を抱えながらも、それでも自分の空を飛ぼうと決意する姿を描いています。
作品に直接説明文を付けるのではなく、こうした短い物語やポエムを添えることで、見る人が自由に想像できる余白を残したいと考えています。
写真・ポエム・作品を一つにする
ひさしさんが今回試してみたいと話していたのが、
「作品・ポエム・写真」の三つを組み合わせた展示です。
例えば、蜘蛛の作品であれば、
部屋の片隅で何かをじっと待っているような写真。
そこに片思いをテーマにしたポエムを添え、その隣に実際の作品を展示する。
そうすることで、単純に「妖怪の置物」として見るだけではなく、そのキャラクターが本当にどこかで生活しているような世界観をつくることができます。
ひさしさんは、
「作品単体では伝えきれない部分を、写真や言葉に助けてもらいたい」
と話しています。
「奇々怪々展は実験の場」
ひさしさんにとって「奇々怪々展」は、普段の壺屋焼とは少し違う表現に挑戦できる場所でもあります。
妖怪をつくる。
大胆な色を使う。
作品にポエムを添える。
写真と組み合わせる。
こうしたさまざまな表現を試しながら、
「どんな見せ方がお客さんに刺さるのか」
を探っています。
本人も「妄想実験場」と表現するように、作品を作って終わりではなく、そこからどのような物語が広がっていくのかも含めて楽しんでいます。
物語があることで、作品との距離が縮まる
ひさしさんがインタビューの中で何度も話していたのが、「物語」の大切さでした。
見たことのない妖怪やキャラクターは、ただ作品だけを見ると、
「面白いね」
だけで終わってしまうこともあります。
しかし、
「この蜘蛛は実は片思いをしている」
「部屋の片隅で、ずっと誰かを待っている」
といった物語を知ると、突然その作品が身近な存在に感じられることがあります。
妖怪という非日常的な存在の中に、人間と同じような感情を入れることで、作品との距離が少し近くなる。
それが、ひさしさんが今回の展示で試してみたい表現です。
ひさしさんの「奇々怪々」
ひさしさんの作品は、見た瞬間の印象だけで完結するものではありません。
作品を眺め、ポエムを読み、写真を見ることで、その裏側にある物語が少しずつ見えてきます。
怖い妖怪だと思っていたものが、実は恋をしているかもしれない。
勇ましい神様だと思っていたものが、まだ幼い子どもかもしれない。
そんな自由な想像を楽しみながら、自分だけの物語を見つけてみてください。
【製作者】島袋 尚(しまぶくろ ひさし)
壺屋窯元 育陶園 陶工
壺屋生まれ、壺屋育ち。幼いころからやちむんが身近にある環境で育つ。
シーサー制作とろくろ成形による器づくりの両方を手がける陶工。
やちむんの伝統技法を大切にしながら、一点一点丁寧に制作。
お茶目な人柄から生まれる、凛とした表情のシーサーと、美しい佇まいの器が魅力。
日々の暮らしに寄り添いながらも、確かな存在感を持つものづくりを続けている。

育陶園が展開する店舗「Etha」で、開催した企画展「奇々怪々展」で発表した作品の製作者インタビューです。「奇々怪々展」では、沖縄に伝わる妖怪や不思議な存在、そして職人たちの自由な発想から生まれた、少し不気味で、どこか愛嬌のある作品をご紹介しました。
作品の一部はオンラインショップにてお求めいただけます。一点ものの場合は、SOLDOUTとなっている作品もございます。ご了承ください。
9/24発売スタートです。

