シーサー職人・鯉沼則之がつくる「クロニクル獅子」
2026.09.01共有
子どもの頃のワクワクを、シーサーに。
シーサー職人・鯉沼則之がつくる「クロニクル獅子」

育陶園で長くシーサーづくりに携わる、職人・鯉沼則之。
生きものが大好きで、その身体の構造まで考えながら形づくる手びねりのシーサーは、育陶園でも親しまれている作品のひとつです。
そんな則之さんが、今回の感謝祭のためにつくった「クロニクル獅子」。
赤と銀が印象的なその姿には、則之さんが子どもの頃に夢中になった、1980年代のSFや特撮の記憶が込められていました。

――今回のクロニクル獅子は、どんなところから生まれたのでしょうか。
僕が育った時代ですね。
子どもの頃が80年代で、ウルトラマンだったり、スター・ウォーズだったり、E.T.だったり。
あの頃のSFや特撮には、すごくワクワクしていました。
今回は、その頃に自分が感じていたものを表現してみた、という感じです。
――特定のキャラクターをモチーフにしたわけではないんですね。
そうですね。
何かひとつをそのまま形にしたというより、あの時代の空気とか、自分がワクワクしていた感覚ですね。
昔のSFって、色のついたランプがたくさん並んだコントロールパネルだったり、大きなスイッチだったり、今見るとちょっと野暮ったいようなデザインもあるんですけど、それがすごく格好よかった。
今回はそういう、自分の中にずっと残っている80年代のSFを、今の自分の技術で出力してみました。
――赤と銀の色合いも、その時代を感じさせます。
赤は使いたかったですね。
僕自身、赤が好きというのもありますし、ウルトラマンをはじめ、あの頃の特撮には独特の「赤」があったと思うんです。
少し野暮ったいくらいの赤というか。
そこに最近、自分の表現のひとつとして使っている銀のメッキも合わせました。
焼き上がるまでどう出るか分からない部分もあったんですけど、赤と銀が反応して、少し黒ずんだような表情も出てくれました。
自分としては、そういう偶然も面白いと思っています。

――身体についている丸いパーツも、とても特徴的ですね。
これはシーサーの「巻き毛」を表現しています。
身体に穴を開けて、そこに丸い玉を一つずつはめ込んでいます。
ただ表面にくっつけているだけではなくて、ちゃんと穴の中に入る構造になっています。
見えないところにも形があるんです。
――かなり手の込んだつくりですね。
初めてやることだったので、最初はうまくいかない部分もありました。
焼いたあとに外れてしまったものもあって。
そこで鶴田さんが使っている「水ガラス」を使った泥でつけ直しています。
水ガラスは本来、別の用途で使うものなんですが、こういう接着にも使えるんです。
それから、この丸い部分の細かな彫りは、自分だけでは難しかったので、別の職人にお願いしました。
そこに赤絵も入れてもらっています。
だから、今回の作品は自分一人ではできなかったですね。

――いろいろな職人の技術が入っているんですね。
そうですね。
やってみたいことがあったときに、すぐ相談できる人がいる。
「これ、どうしたらできるかな」と聞いたら、誰かが知っていたり、技術を貸してくれたりする。
そういう環境があるから、自分だけではできない表現にも挑戦できます。
今回は、いろいろな技術を組み合わせた作品になりました。

――則之さんは、生きものの身体の構造を考えてシーサーをつくることも多いですよね。
そうですね。
形の表面だけではなくて、「中がどうなっているか」ということは気になります。
今回の丸いパーツもそうですけど、ただ外側につけるのではなく、穴があって、そこにはまっている。
見えない部分にも構造がある。
そういうつくり方は、自分の中では大事なのかもしれません。

――顔が少し横を向いているのも印象的です。
真正面だけを向いているより、少し動きが欲しかったんです。
ちゃんとしているけれど、ちょっと視線が動いている。
「今、何かに気づいたのかな」というような。
見る角度によって表情も変わりますし、正面だけではなく横からも見てほしいですね。
――80年代の作品の中で、特に印象に残っているものはありますか?
ウルトラマンだったら、ウルトラセブンですね。
何が好きだったのかと言われるとうまく説明できないんですけど、フォルムだったり、目だったり、変身の仕方だったり。
「これやっていいの?」みたいな、ちょっと攻めた感じが格好よかった。
E.T.も大好きでした。
子どもの頃、本当に宇宙人の子どもを誰か地球に置いていってくれないかなと思っていました(笑)。
それくらい、あの世界が本当にあると思っていたんでしょうね。
――その頃の感覚が、今も作品の中に残っているんですね。
残っていますね。
昔の映画やSFって、今でも自分の中に居座っているんです。
何でも新しく生まれて、キラキラしていた時代。
その頃に受けたものが、ずっと自分の中にあって。
今回は、それをシーサーという形で少し外に出せた気がします。
あの頃のワクワクを、今の手で。
ウルトラマン、スター・ウォーズ、E.T.。
1980年代、少年だった則之さんが夢中になったSFや特撮の世界。
そこにあった色、形、少し未来的で、少し不思議なデザイン。
今回のクロニクル獅子は、それらをそのまま再現したものではありません。
長年シーサーをつくってきた則之さんの手を通して、子どもの頃の記憶を現在の表現へと変換したものです。
そして、その表現を支えているのは、銀メッキや赤絵、水ガラスによる接着、ほかの職人による細かな彫りなど、育陶園の工房にあるさまざまな技術。
「自分だけではできなかった」と話す則之さん。
子どもの頃に見た未来の世界と、長年積み重ねてきた職人の技術。
その二つが重なって生まれた、少し不思議で、どこか懐かしいクロニクル獅子です。




鯉沼 則之(こいぬま のりゆき)
壺屋窯元 育陶園 獅子職人
育陶園にてシーサー制作を行う職人。
あらゆるものへの好奇心をもとに、生命感あふれる表情や造形を追求している。
やちむんの伝統技法を大切にしながら、心身をととのえ、精神を整えることを制作の軸とし、一体一体と丁寧に向き合う。
静かな集中の中から生まれるシーサーは、力強さとやさしさをあわせ持ち、暮らしの中で自然と寄り添う存在となっている。
また、自身の活動としてキャンドル制作や精油の調合も手がけ、香りや灯りといった感覚を通して、ものづくりの幅を広げている。

育陶園感謝祭で製作したシーサーです。
感謝祭の日より、育陶園本店にて販売いたします。

【育陶園 感謝祭2026】
日程| 10月10日(土)・11日(日)・12日(月・祝)
時間| 10:00~18:00※店舗・施設によって営業時間が異なります。
場所| 育陶園 各施設
・育陶園本店・Kamany・gumaguwa・Etha・nan*ne・壺屋のいりぐち・育陶園やちむん道場・育陶園 工房
